古川桃流
ゲンロンSF創作講座の申込み前に知ってるといいこと
Posted on 2023-03-27 , Updated on 2023-03-28

ゲンロンSF創作講座 2022(第6期)が感動のフィナーレを迎え、私はなんの賞も得られず終わった。

この講座のしくみを誤解していたばかりに講座をうまく使えない、という現象を観測ことがある。なので、ゲンロンSF創作講座第7期の募集が始まる前に、いくつか情報を書き残しておく。ただ第7期は事情が変わるかもしれない。

どうすればいいのかを意図的に書いていない。受講者によって目的が違い、目的が違うと解決策も違うからだ。とはいえ、受講するまで気づかないかも知れない便益は書いておく。また、私がやったことはゲンロンSF創作講座 2022(第6期)のふりかえりに書いた。

梗概を書いてから、実作を書く

まずゲンロンSF創作講座第7期を読んで、基本的な仕組みを理解しておく。

期待値調整が必要なこと

つぎに「この講座は○○ではない」ことを書く。ネガティブに聞こえるかも知れないけれど、あとでこれがポジティブな便益になることを書くから、安心して欲しい。

具体的なトレーニングは提供されない

教えてもらう場、ではない。

講義の時間では、作家講師が書き方、心構え、アドバイスなどを話す。けれど、その内容を受講者が実践し、その内容ができているかを直接確認するプロセスはない。

たとえば「このやり方でSF的な設定を作れる」みたいな講義があったとする。けれど、そのやり方を実践して作った設定が有効か、あるいはそのやり方の実践過程が適切なのかのフィードバックを受けるプロセスは、講座からは提供されない。

また、課題提出をしてから、講義が行われるという順序にも注意が必要だ。たとえば、藤井太洋先生は「生まれ育った場所を離れる話」という課題を出した。受講生の提出期限は8月19日。一週間後の講義で、藤井太洋先生は「SFの設定の考え方」みたいな話された。したがって藤井先生に教わったことを作品に反映しても、藤井先生には見てもらえない。

梗概と実作で、作家講師と編集講師は異なる

提出された梗概は、1週間後の講義で大森望先生、作家講師、編集講師が評価する。そこでアドバイスを受けることもある。

次回、通常は翌月、実作を書いて提出するんだけど、1ヶ月後の作家講師と編集講師は、いずれも別人である。したがって梗概のときの作家講師のアドバイスに従った結果、実作のときの作家講師が低く評価することが起こり得る。

獲得ポイントと最終課題「ゲンロンSF新人賞」は関係ない

実作評価によってポイントがつき、ポイントは貯まる。

最終課題から5つくらいが最終選考に選ばれ、最優秀作品がゲンロンSF新人賞となる。このとき、ポイントは考慮されない。原理的には、一切の課題を提出せず最終課題で優勝できる。

評価はされるが、アドバイスの密度は平等ではない

梗概は、講師は必ず読んで評価点数的なものをつけている。選出された梗概から書かれた実作も然り。講師によっては、自主提出の実作(=梗概が選出されなかったけど、自主的に書いた実作)も評価する。

壇上で、大森望先生、作家講師、編集講師が言及してくという形式で、評価やアドバイスが伝えられる。評価は、基本的に張り出されたりしない。

梗概評価では、3人が高く評価した順に言及されていく。そして、後のほうほど時間が割かれない。話が長い講師だと、最後はほとんど言及する時間がない場合もある。

また、後ろのほうを呼ぶ順はばらばらだけれど、きちんとランダムにならない。受講生のID順になったりする。ID は、受講生が提出システムにログインするときに使う、アルファベットで始まるIDのこと。逆順で言及されることもある。

文字数の扱いは講師によって異なる

1200字の制限をオーバーした梗概を、どう評価するか、は講師によって異なる。

複数種類の講師がいることによる便益

以上のような講座の特性には、裏返しとしての便益がある。その便益が、あなたの課題を解決するならば、有意義な受講になるだろう。

作家講師、編集講師

作家講師が梗概や実作に対してコメントするとき、おそらくは「私ならこうする」というイメージを持っていると思う。作家のスタイルと、提出者のスタイルが違ったとしても、おそらくは作家経験に基づくコメントになるはずだ。傾向として「〜したらいいのに」というコメントが多い印象がある。

円城塔が、新井素子が、藤井太洋が、7期なら斜線堂有紀が、どうしたら良くなるか一緒に考えてくれる。

編集講師は、当然ながら編集者としてコメントする。ハヤカワや創元の賞に応募した時に、どう読まれるかを聞ける。文学賞の一次選考を通過したことがなくても、編集者がどう読むかを知れる。

多くの文学賞において、詳細なコメントを貰えるのは、賞をもらったときだ。あるいは最終選考に残ったときくらいだろう。

大森望・作家講師・編集講師

梗概にせよ、実作にせよ、講師の組み合わせによっては、評価がある程度ばらつく。ポイントを取りたい、選出されたいという文脈では、困った状況である。けれど、これには別の便益がある。

もし3人の評価が一致していたら、おそらく他の作家や編集者も似た評価をするだろう。3人が高評価を与えた作品は、他のSF選考でそこそこ評価されるはずだ。逆に、3人に見向きもされなかった作品は、他のSF選考でもあまりよい評価をされない可能性が高い。もし3人の評価が割れたら、その作品は、よそでも評価が割れる可能性が高い。

提出した作品が、普遍的におもしろい・つまらないのか、議論の余地があるのかが分かる。これが、いつも同じ講師だと、そうはいかない。

さらに、講座回によって作家講師と編集講師が変わる。話を注意深く聞いていると、誰もが気にするポイント、誰も気にしないポイント、人によっては気にするポイントというが見えてくる。

講座での評価に一貫性がないということは、多様なプロの評価軸に晒すことができるという意味でもある。

他の受講生

毎回、他の受講生も同じテーマに対して提出するので、どのようなアプローチが有効なのかを観察できる。そして、「誰が」コンスタントに評価されるのかも見えてくる。

たとえば、6期では、猿場つかささんや長谷川京さんが、比較的コンスタントに評価されていた。中盤ごろは、ふたりとも、ちょっとファンタジーやホラーっぽいSF設定を使って、高い評価を受けていた。

そこで私は幽霊を設定に入れてみたことがある。結果として「状況はおもしろい。もうちょいキャラクターとかもりあがりがあるといい」と評価された。「ホラーっぽいSF設定」の部分は活きていたと考えられる。それで、次はキャラや構成に目を向けることした。

ただしテーマというのは比較的ゆるいし、創作という性質上、まったく同じものができるわけではない。また似た作品があるとライバルになってしまって、評価が高くても選出されにくい。絶対評価ではないことを忘れないように。

講師以外の読者

友達をつくる必要はない。講師とは別の読者視点を得ることができる。

プロではない人からのアドバイスは不要だと考えるひとはいると思うし、実は私も同じ考えだ。けれど、私くらいのレベルだと「どう読まれたか」を知ることは、とても役に立つ。提出前ならなおさらだ。

そもそも意味が伝わっていない、意図が伝わっていない、そういうことを確認できる。

講座が始まって誰も Slack や Discord を立てていないようなら、立ててしまおう。誰も集まらなければ、そのまま捨てればいい。

伝統的に、ダールグレンラジオという Podcast があり、卒業生が提出作品にコメントしてくれる。私は音声情報を処理するのが苦手なので、あまり聞けてない。けれど、もしあなたが Podcast を聞く習慣があるなら役に立つだろう。

まとめ

いかがでしたか(

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